執拗な恋、夜を飲み干す。
「早く向こう行きなよ」

「はいはい」


 雅さんが離れると、玲さんは少し気まずそうな、やりにくそうな、そんな曖昧な表情を見せた。どこかいつもの彼らしくはない。


「…お世話になってて、何もお返し出来ていないので。もし、俺が何かするかもとか、そんな不安があったら、断っていただいても」

「玲さんなら何か起きても本望です!」

「やめてください」


 混乱のあまりおかしなことを口走る私に、玲さんは困ったように苦笑いした。

 私は彼のことが好きなのだ。彼に誘われて、断れるはずがない。

 今は告白もせずに、ただただ彼の傍にいるだけだったけれど、欲を言えば本当はもっと近付きたい。もし私に対して理性が飛ぶ瞬間が少しでもあるなら、それを利用してでも距離を縮めたいとさえ思ってしまう。

 彼になら、どんな扱いを受けたっていい。


「…間違いなんて、起こさないので。大事な人ですし、そうなるとしても、きちんと自分の意思でそうします」


 言い放たれた言葉に目を見開くと、彼はタイミング悪く別の客に呼び出されてしまった。「はーい」と返事をしてから、彼はもう一度こちらを見る。


「それじゃあ、またLINEします」

「…はい」


 玲さんの言葉を、何度も心の中で繰り返す。

 そうなるとしても、って何? そうなる可能性はあるということ? 期待してもいいってことですか?

 自分の中で混乱と期待が膨れ上がり、苦しさすら感じる。

 土曜日。何が起きるか、わからない。
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