執拗な恋、夜を飲み干す。
 店に着くと、隣り合わせのソファに腰掛け、目の前に広がる夜景を眺めながらの食事が始まった。

 正直、景色を楽しめるほどの心の余裕なんてどこにもなかった。運ばれてくる料理の味さえ、今の私にはわからない。緊張と、困惑で、頭の中はぐちゃぐちゃだった。

 最初から、ただ傍にいられるだけでいいと思っていたはずだった。それなのに、彼がいつか自分以外の誰かと幸せになる未来を想像すると、胸が締め付けられる。幸せになれるならその方がいいと、願っていたはずだったのに。

 いつからだろう。彼の幸せを想うたびに痛みが走り、そんな未来なんて来なければいいと、醜いことを考え始めたのは。


「紗希さん?」


 名前を呼ばれ、ゆっくりと視線を上げた。玲さんは心配そうに私を覗き込んでいて、私はそれを真顔で見つめ返す。

 こんな最低な私を、見てほしくない。こんな歪んだ考えに至るくらいなら、最初から傍になんていない方がいいのではないか。出会ったばかりの頃、ただ純粋に恋をして、隣にいられることだけを願っていたあの頃の私には、もう戻れない。

 彼の隣が私じゃないなら、幸せになる姿なんて見たくない。そんな相手が現れなければいい。そう願ってしまう今の私は、もう彼に真っ直ぐ"好きだ"なんて言えなくなってしまった。

 もう、私はあのバーに通うことも、彼の前に居続けることも、しない方がいいのかもしれない。


「玲さん」

「はい?」

「そろそろ、私達二人で会うのをやめませんか?」

「…え?」


 周りの和やかな話し声も、穏やかなBGMも、何も届かない。静寂が、私の周りを支配している。

 綺麗事だけでは恋はできないと知ったのは、あなたに恋をしたから。
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