指先で恋を伝えて


それから、雅人さんは忙しい中、週に1度ぐらいの割合で、時間を作って手話を教えに来てくれるようになった。
彩羽さんも一緒だから、先生二人に生徒が一人という贅沢な手話教室だ。

まず、基本のあいさつなどから始まり、簡単な単語など主に手話5級のテキストの内容。
「ダメ」とか「疲れる」とか、そんな言葉はすぐに覚えられるけど、会話をするまでは遠い道のりになりそう。
そう思うと、ついため息が出てしまった。

「疲れてる?仕事終わりに大変だよね」

雅人さんだって、仕事終わりに教えに来てくれているのに、心配させるなんて生徒失格だ。
私は慌てて、手を振った。

「い、いえ。自分の不甲斐なさに、ちょっとため息が……」

「いや、よく頑張っているよ」

すると、彩羽さんがぱぁっと顔を輝かせ、両手をひらひらと動かす。

「彩羽が、“美織さん、すごく上達早い”って言っています」

「え、本当ですか?」

そう言われると、落ち込んでいた気持ちがふわりと軽くなる。

すると彩羽さんは、さらに大きく頷き、再び両手を動かした。
けれど、まだ私にはわからなくて、小首をかしげる。

彩羽さんの手が止まると、雅人さんが少し困ったように眉を寄せる。

「彩羽!」

「彩羽さん、なんて言っていたんですか?」

私の問いかけに、雅人さんは、言い難そうに答えてくれた。

「それが……“お兄ちゃん、美織さんの先生するの楽しそう”って言ってます」
< 11 / 20 >

この作品をシェア

pagetop