指先で恋を伝えて
年の頃は30歳前後、180センチはありそうな高身長、スッと通った鼻梁、薄く形の良い唇、涼し気な目元。
そして、スーツの袖口から覗く手は、驚くほど綺麗だった。
長い指。
節ばった骨格。
無駄のない手の形。
思わず、ネイリストとしての視線が吸い寄せられる。
確かに、イマドキ男性でもネイルをする人もいる。
でも、予約情報にあった「20歳」には見えないし、「女性」でもない。
「あ、あの、ご来店ありがとうございます。ご予約頂いておりますでしょうか?お名前お伺いいたします」
とりあえずは、無難な問い掛け。これなら失礼に当たらないだろう。
でも、極上の男性を目の前にして、心臓の鼓動が早くなる。
それは、道端で芸能人を見かけたときの、ドキドキ感と似ていた。
すると、スーツ姿の男性が、ゆっくりと店内を見回し、話し出した。
「予約を入れています。神崎彩羽ですが……」
と、意外な返答に私は目を瞬かせる。
その瞬間、スーツ姿の男性の後ろから、ひょこっと黒髪の女性が顔を出し、微笑んだ。
その女性は、男性に向い両手を動かし始め、そして、男性も、迷いのない動きで指を返す。
ひらひらと、美しい指先が空中を舞う。
その二人のやり取りは、まるで蝶が戯れているようだった。
指先が空気を滑って、言葉の代わりに感情を描いていく。
意味なんて、まったく分からない。
けれど、その手が、とても優しいものだということだけは、不思議なくらい伝わってきた。