指先で恋を伝えて
あっという間に、彩羽さんの予約の日になってしまった。
手話を始めてみた感想は、思っていたよりずっと難しい、ということだ。
あいうえお表にあたる指文字だけでも76種類。
その上、単語にあたる表現は無数にある。
考えてみれば、一つの言語を覚えるようなものなのだ。
難しくて当然だった。
それでも。
『ありがとう』
『こんにちは』
『いらっしゃいませ』
その三つだけは、なんとか覚えた。
だから今日は、まず、
『こんにちは』
『いらっしゃいませ』
そこから始めようと思う。
予約時間の10分前、カランとベルが鳴り、雅人さんと彩羽さんが来店した。
私は、少しの緊張を交えつつ声を出す。
「こんにちは、いらっしゃいませ」
もちろん密かに練習した手話を添えて。
ぎこちなくも間違えなく出来ていたと思う。
二人の視線は、私に向けられていた。けれど、なぜか言葉をなくしているようだった。
間違って覚えていたのだろうか?
それとも、出過ぎマネで不快感を与えてしまったのだろうか?
と不安が胸に広がる。