醜と美そして陰謀論、を物語る。
教養を身につけ差別意識が始まる
目を疑うようなサブタイであろうがまずは兄弟の成長の日々をご覧あれよかし。
「サビさん、少しは勉強したら?」
テツのいる教室に来るサビに対してカツテがこう聞くと彼は首をいつものように横に振るう。
「何度も言うが、俺はしない」
「だけど少しは字を覚えた方が」
「いや、覚えられないからいい。たぶんこれは遺伝かもしれないし」
誤りである。彼の母親は概念喫茶の経営にも関わっていたために字の読み書きは出来る。
筆記体から怪文書体まで様々な字体を書き分けられる素養の持ち主であった。
そもそも彼の母は顔が醜い以外は何でもできるという一種の怪物とも呼べた。
だが、息子はそうではないことになっている。
まるでそうしないことに決めているように。
「読み書きはテツとクレナイに任せて俺は違うことに専念するんだ。カツテさんも中々諦めないな」
「そうだけど……」
「兄さんにいくら言っても無駄だよ先生」
テツはそう言いながら先生と呼んだカツテを見た。
「だって兄さんは勉強が出来ないしやる気もない。それは僕に任せてもらえればいいよ」
カツテはこの言い方にいつも反感を抱くもサビを見ると満足気に頷いているので何も言えなかった。両者が同意している以上強いることはできない。
「そうそう俺が戦士として前で戦いテツが後ろから指揮する、これでいいはずだ」
「まぁ、その形が理想的といえばそうであるけどね……」
カツテはそう言うものの、ここも引っ掛かりを覚えてしまう。
サビの言葉に間違いは見当たらない。
字が読めない脳筋の戦士は賢いものに従うべきだ、これに誰が反論できようか?
しかしまるでこの解釈に従いなさいとまるで言っているかのようにカツテは違和感を覚えながらテツを見る。
さっきのサビに対する言葉は良くはないが、この子はとても賢いと頷くことしきり。
古くから王家は文武両道と言いつつもどちらかというと文を重視し賢者であろうとしていた。
そのおかげでか王の一族は賢い文人系のものが多く典型的な武人系は少ない。そのことを考慮してもこの子は特別にすごいとカツテは思うしかない。
砂に水が浸透していくかのように教えたことを瞬く間に全て吸収していき、こんなに教え甲斐のある子も珍しいぐらいの神童そのものであった。
一方のサビは岩である水を注いでもはじき返して浸透などしない。あたかも愚直そのもの。
「ほらテツは賢い。王となるものに相応しい才能だ」
サビはテツの賢さをしきりに嬉しがっていた。そこには自分の学の無さを嘆くも我が子が学校の首席であることを誇る父親のように……本人も含め周りのものは納得している。
そうだよな、お前は顔が醜いから勉学でも障害があるのもやむをえない、と。心の中で思うものが多数のなかでそこにもカツテは引っ掛かるばかり。
これもまるでそうしなければならないなにかがあるように……
「兄さんは勉強ができないのがなぁ……」
そして日々が流れ年を経るにつれてテツはサビへの不満を口にすることが多くなっていく。
しかしそれは勉学に対してのみであり、醜さといったものではなかった。下に見るのはその学の無さだ。
「字が読めないから代わりに読んでくれと人前で言われると恥ずかしいんだよね。どうして兄さんはあんなに学が無いのだろ?」
勉強をすればするほどテツは兄に対してそういう感情を育てていく。
「どうして兄さんは勉強ができないのだろう。というか学ばない態度がなぁ」
試験で良い点数をとればとるほどにテツはそういう思いを抱かざるを得ない。
「きっと本質的に馬鹿なんだろうな。しょうがない人だ」
テツは学のあるなしについては差別して良いという感情を勉強で学んだ。
誰でも勉強はできるというのにしないし出来ない、それは馬鹿にされてしかるべきものなのだ。
勉強や学問は万人に開かれており誰にでも学ぶ機会が設けられている。
そうだというのに何故しない? 何故できない? それはあなたが怠けているからである。
自分で自分を愚かだとしているというのならそれは批判されてしかるべきものだ。
学ばず努力しないものは良くないと知っていながらやらないと判断している。
よって差別されるのはあなたのせいであり、差別するこちら側のせいではない。
お前の、せいだ。
……学問や勉強は啓蒙であり人間の品性や常識を向上させ人間性を高めるという効果を期待されている。
勉強すればするほど教養を身につければ身につけるほど歴史を知れば知るほど世界についての解像度が上がり、差別や偏見から解き放たれるはずである。迷信は勉強による知性で打破できる。
そうであることを我々は知ると同時にそうでないことも我々はよく知っている。そこに間違いはないがあたかもそれは光があれば闇も生じるさだめなようなもの。
新たな差別感情がそれによって生まれたことを我々は見て知っている。
テツは美醜では差別はしない。頂点に立つものが下に対していちいち分け隔てなどしない。おしなべてみな醜い。キリンさんからしたら人間はみんな小さきものだ。可愛いやつらよ。
テツは身分では差別はしない。自分は王となるものの血を継承している。王子というライバルはいるがそれ以外は下だ。愛を以て慈しむに限る。
なによりもそれは生まれ持ったものであり自分のものではない。両親ならびに御先祖から受け継いだものだ。これで威張るのはちょっと違う。むしろ遠慮がちにもなり謙虚さも生む。
そうであるからこそ努力して自分の力で掴んだもの、元々の才能はあっただろうがそれを頑張って大きくしたもの、競争から勝利し褒められたこと、それを誇りにすると共に他者と比較しそして威張るための武器とする。
それが教養であり学問の負の側面である。高学歴な老人に気に入られる方法として自己紹介で大学名を明かすというものがある。
それによって自分の出身大を誇りたい老人は返事としてそれを明かせられ「すごいですね」と言われれば大満足してくれる、はず。とにかく学歴に取り憑かれると人を名前よりも出身大学や出身高校で覚えるみたいだから恐ろしい。
東アジアで言えば科挙の伝統が筆記試験による身分制を肯定しているのかもしれない。
世襲による身分制の廃止後は試験による身分制の創設とは人間の業の深さを感じてならないが、歴史社会学はこの近代的身分制がいかにして非エリートから憎まれ解体されていき、そしていまなにが残っているのかを研究しているわけで極めて現代的な話題であろう。
そしてどうしてテツはサビに教養で張り合い対抗したがっているのかはまた次回に。