醜と美そして陰謀論、を物語る。
正しさハラスメント。正論で追い詰めるロジハラ
成長するにつれてコンの義母を見る眼は変化していった。
何もかもが正しいと思っていたのに、なんだか間違いが目立つというかもう粗しか見えない。
「この人はたいしたことないんじゃないの?」
そう思うとコンは義母がとても小さく見えた。ある日突然子供が大人の愚かさに気付く時がある。
徐々に気づきいていき、もしかしたら親と同い年になってやっとその時の苦労が分かったという場合もあるだろう。
それはとても幸運なことであり親孝行となる。親は子に自分の苦労を分かってくれることのみを結局は望む。
なんといっても親をもう馬鹿にしないという点で既に救いなのだ。しかしまだ子供の時に気付いてしまうことは不幸だ。
双方にとってとても憐れなことだ。早すぎる、まだその時ではないのは不幸の根源。
私はこの人よりも賢い……というか上だ。
この意識ほど親を苦々しくさせるものはないのである。自分の至らなさや幼さを露呈させられるほど嫌なことはない。
自分より下のものが自分より上だと認識することほど親の面子を潰すこともないだろう。
だがこれは自業自得である。己の力量以上のものを彼女は求めてしまいそれが叶ったのだ。第一夫人は己の力量を見誤ったし何よりもコンの才覚を致命的に見誤った。
自分より才あるものを下に置こうとしたがるのが間違いであったのだ。こうなった場合は子供をいつまでも下に置こうとせずに、徐々に上に置いて少しずつ頼るようにしたほうがずっと楽で自然なことなのだ。
ところがそれが第一夫人には分からないし理解したくもない。そうこれこそが親の典型的な不幸の始まりである。
不幸の姿は似たり寄ったりのパターン化しているがこれはその一例。自分より下のものが上になることを許さないという度量の狭さはその身と心を苦難に晒す。
コンは第一夫人に対して次第に口ごたえをし出す。お義母様はそう言いなさいますがこれはこうしたほうが良いではありませんか?
それがしごくもっともな提案であっても第一夫人がはねのける。冗談ではない! 下のものの意見は聞きたくない! 特にあなただけにはね! まだ18の小娘の分際で意見など結構! あっちにいけ!
駄々を捏ねたようにムキになって反論し拒絶。この態度はなにも良いことが無い。更なる侮蔑と自分への呪いが加速する。
自信のなさからくる拒絶は恐怖の一種なのだ。そんなことすら分からないから破滅する。
コンは義母を見限り自分よりも下につけるべく行動を開始ししだす。
どこかの醜女氏のような暴力を? いいえ正しさによってである。
なぁに簡単なことである。昔から口酸っぱく注意されてきたことをそのまま言った本人に返すだけ。
お義母様は自分に正しさを教えてくれました、だからそれをお返しするだけです。簡単ですよね? 出来ますよね? だってあなたが私にそう教えてくれたじゃないですか?どうしました? まだですか? 間違えていますよ? どうしてですか? どうしてですか?
自分に返ってくるかつての自分の言葉に対して第一夫人は何も返せなくなっていく。そんなの知らないうるさいと言い逃れることも出来たが、それをするほど第一夫人は愚かでも恥知らずではなかった。
まぁ何事も半端でいわば不器用な完璧主義者というやつで、彼女はどこにでもいる普通の人なのである。
正しさを用いるハラスメント、正論ハラスメントの「ロジハラ」によって第一夫人はコンの顔色をやがて窺うようになった。
こうなってしまったのである。
そもそもコンは既に青年へと変わり一人の女としての彼女はとても強かった。文武両道に優れそしてなによりも美しかった。
コンの母親が弱さからの成り立つ美であったとしたらコンは強さから成り立っている美でもあった。
第一夫人は見下しながら見ていたコンの母親とは逆に今度は仰ぎ見て上目遣いを自然にとっている。上背の時点で負けているうえに心理的にも負けなのである。
さて第一夫人の目に映った紺の表情だが能面で見下している。そりゃそうである。見上げている人間の目から見た他者の目は見下しているに決まっている。
この問題は相手より自分がそういうふうに見ているからそう感じることなのだ。そう、この自分がそういう風に見ているからこそ、そう見えるという点が重要なのである。
コンは確かに第一夫人に対しては自分より下だと意識し言葉の端々にそういった態度を取りだしている。
だが彼女自身はあなたは下で私は上ですなる言葉は一切使ってはいなかった。こいつは自分を下に見ている! これは侮辱でありすぐに反撃をしなければならない。
第一夫人はそういったことには慣れておりいつもそうやってきた。だがコンに対しては心理的に圧迫され反撃できず混乱した反応をとらざるを得ないのだ。
それは第一夫人自身が心の中でコンを自分よりも上だと認めてしまっているからである。彼女的にはまさかの敗北である。そのうえで彼女自身にも負い目があった。あの虐待に近い教育環境。
もしもコンのあの態度が長年にわたる自分の行いに対する仕返しであったらとか、と考え出すと次第に怖くなってきた。どうしてこうなった?
その後もコンからの細かい提案や訂正といった正しさというハラスメントは延々と毎日のように続いた。
そのどれもが第一夫人にとって反論が困難な屈辱的なものであった。混乱と敗北は彼女の心をさらに小さくさせた。次に何を言われるのか?
どのような追求がどんな目で見られるのか? いやだいやだと恐慌を起こした第一夫人は発作的に旅行に出かけ、しばらくして帰ってみると家の中身はすっかり違うものとなっていた。
知らない女の家に来てしまったかのような錯覚を起こす中でコンが家来を全員連れてお出迎え。
そう家庭内クーデタの仕上げに入ろうとしていた