醜と美そして陰謀論、を物語る。
私はどうして王になれないのだろう? 女だから? 伝統だから?
「お帰りなさいまさお義母様。このように家の内装を予てからの計画通りに変更いたしました。これでよろしいですよね?」
笑顔で尋ねるコンと緊張した面持ちの家来一同。第一夫人は固まった。
そんな計画は一切なく第一夫人はすぐに気づいた。これはクーデタであると。
しかしコンはまだ完全にこちらの権限を奪おうとはしていないことも察した。現にほら尋ねているのだ。これでいいのか、と?
みなさまがお察しのように当然ながらこれを許可の申請ではない、命令なのだ。
『許可するといいなさい。これは命令です』という奇妙だが成立する矛盾。つまり形式だけは残してあげますという交渉である。
もしここで断ったら以後はこうした形式的なことすらされずに勝手に進んでいくかもしれない。
もちろん勝手に進んでいくのは変わらない。要は手続きをどうするかということだ。
ならば体裁だけでもそうすれば、まだ自分はコンの上だということを周りに見せることができる。
こうなっては名より実をとるのではなく実より名をとることにした。お飾りですらなく扱われるのは耐えられない。
人間は最後は他人にどう見られているかに自ら命運を託し自由を明け渡す。
「それで……よろしい。よくやりました」
こうして第一夫人は屈服した。コンの要求は決まっている、お義母様は今まで通りの態度でお過ごしください、ただしこちらの提案は全て受け入れるように、これである。
ある日のこと。これでよろしいでしょうか? というコンの提案や修正に対して怯えながらよろしいと俯きながら答えると、コンが無言のままでいることに第一夫人は不安となった。
自分は良いと言ったのに、なに? 何を私に求めているの? いつものように返事をしてと苦しみながら少し上目遣いでコンの方をゆっくりと見上げると、そこには彼女の顔がありそして目が合うと微笑んできた。
ありがとうございます、と彼女は答えた。つまりはそういうことである。
ちゃんと私の目を見て返事をしなさいとその濃紺の瞳が放ったかのような暗い光のメッセージは第一夫人の心に届き、怯え以後そうするようになった。
こうして継母の支配から脱し以後逆に支配することとなったコン。そして第一夫人としての実務の仕事を全て取り仕切ることとなった。
父親のジンもそれで構わないといい、もしもジンが王となった場合は実質的な王妃はコンとなる。
だがしかしたとえ王妃になれたとしてもその先は……何も無い?
なんで私は女王になれないのだろう? とコンは次第に思い始めた。
学べば学ぶほど勉強すればするほど知識が増えれば増えるほどに、自分が成ってはいけない理由が分からなくなっていく。
所詮は前例がないということに過ぎないが、その前例というやつが曲者というか最強の理由なのだろう。
四代から先の御先祖は歴史上の人物で現代とは無縁といってもいいはずなのにそうはならない。歴史と伝統こそ人間の意識を支配する力であり政治そのものなのだ。
あの亡くなったお婆様は聡明な権力者であったけれどその前例という昔の価値観に囚われた人だった。
自分が女王だと宣言していたら誰も反対できなかったのに代理という地位に甘んじた。
あの人は歴代最高の王妃として名を歴史に残したかったのだろうが、その名誉を優先する王妃としての誇りが後続の道を断ったと言っても良い。
実質的にそうなのにそうしないとは因習であり慣習であり無抵抗の協力者である。
だいたい自分の同世代の王子や王女の頼りなさは歴代最低ではないかしら? 第二叔父の子は娘ばかりでいかにもな王女様として育てられている。
三番目の叔父には子はいない。よって父が王位に就いたら自動的に継承者は兄なのだが……なぜ? 彼は私よりも下だ。
男である点を除いたら私よりも上なのは力と体力だけだがそれは必ずしも上に立つものの条件ではない。
義母は私に再三教えていたのが王を支えるものとなれ、だった。
あなたの将来はこの頑張りにかかっていると言ってくれたけど、自分より下のものに仕えなさいってことだったの?
それって繰り返しじゃない。そんな馬鹿げたゴールのためにこれまで努力してきたことなんて……あってはならない。
自分より劣る兄を支えるために生きたり、もしくは自分より下の男の妻として出世を甲斐がいしく尽くす……それがゴールなの?
もしもお父様が王になったとしたらその下で仕えるのは当然のことだから受け入れましょう。
けどその先はお断りしたい。自分より下のものにこれ以上無駄に人生を捧げたくはない。
そんな支配を受け入れるぐらいなら私は自分の力で支配者となる、つまり可能ならば女王に……だが父はゴリゴリの保守的な男だ。歴史と伝統に頭が上がらぬ。
よってそんな決定は普通なら出来ないだろうが、幸いなことにあの人は兄を嫌い自分の方を好いている。
そうであるから方法は父が気に入るであろう男を連れてくること。つまり強いものを、可能なら私ぐらい意志の強い男を用意できれば私は王となる可能性の道が開ける。
愚かで弱く卑小なるものにもう支配はされたくはないために私は支配者となる。そして支配しようとするもの、それは私の敵であり逆に支配してやる。
それが私がずっと学び続けた勉強の結論でありそれこそが自由というものだ。
探さなくてはならない。私に相応しい男を、私が女王となるための道具を私は求める。
例が無ければ作ればよくそれが以後の前列となり、そして私が先祖として始まりとしよう。
王女コン、歴史と伝統に対し叛逆開始。