醜と美そして陰謀論、を物語る。
都会なんかぜーんぜん大したことないっすよ(笑)
こうして人知れぬし歴史にも残らぬ一大決戦がアカメ十五世によってこの都にて始められる。
反都会主義者による積極攻勢、だがこれによって今後の世界に決定的な影響を及ぼすとはこの時に誰が気付けようか?
世界中の誰も分からぬしなんたってアカメ本人にすら分かっていない。だが歴史は人間の意識がたまたま妙なところに転がり落ちて流れが変わることもある。
「俺はただ、妻と家族を守りたかっただけなのにどうして……」と後年に後悔してもそれはもう遅く、まさに後悔先に立たず。それではこの戦いの流れを見ていくこととしよう。
王子率いる田舎ものの一行が都の大通りに入る。するとどうだろう王子とアカメ以外の者たちは声をあげた。
人が多いなぁ、と今日は何か祭りでも? いや、平日の何も無いの? それでもこの人の数なの? さすがだなぁ~とはじめて見る途切れぬ人波に感動している同行者たちを尻目にアカメは心の中で毒づく。
『人混み……人ごみ……ハッ! 人がゴミのようだ』と。
アカメは攻勢をかける。だいたい平日に人が一杯ってそいつら働いていない、いわば遊び人の群れじゃないか。
観光客や昼間から徘徊する暇人とろくでなしの群れよ。そしてその脇で貧しく働く者たち。
そうだとも都会なんて地方の食い詰め者たちの巣窟でそれが下町貧民街を形成するというわけだ。
遊び人や戦力外追放された集団を見て人がいっぱいいるなぁ~羨ましいなぁ~と思う心情の方がおかしい。
よって都会は人がいっぱいいることはなんの魅力にもなりはしない。地元を追い出されて寂しいものには魅了はあろうがそんなのは無価値。
そうであるからここは都会の敗北で地方の勝利だ……アカメはこう勝ち誇る、お察しの通りこれが一大決戦の幕開けである。
もちろんここからも都会VS地方の対決はほぼ一方的な展開が繰り広げられることとなった。俺ルールならぬ俺ジャッジ、まるで負ける気がしないぞぉ!
昼食だということで王子と田舎もの一行は城下町のとある老舗に立ち寄り玄関に入るとドラが一つ打ち鳴らされた。
「お客様ご一行のおな~り~」
この演出にみな驚きそして楽し気であったがアカメは一人鼻で笑った。度肝をぬいたつもりか? 俺の心にはなんにも響かんかったぞぃ。
残念ながらここでもそちらの敗北でこっちの勝利だ、ということで連戦連勝。
そんでもって御座敷にあがり少し待つと注文した鋤焼き用の肉が届けられ一同は声をあげた。こんな綺麗な霜降り肉なんて見たことがない、と。
しかし当然ながら闘士アカメの眼は冷たい。なんだこれは脂が多すぎて品がない、と。
作法通りに鋤で焼き口に運ぶと皆は声をあげて旨いというなかアカメだけは失笑した。
ふんっ柔らかすぎて歯応えがない、と。そもそも箸で肉が切れて口の中でとろけて消えるのが良いってなんだ?
お前の口には歯がないのか? 歯が悪くて噛めないのか? それとも入れ歯なのか? ちゃんと歯医者に通え。
実のところ昔のグルメ家は老人ばかりで硬い肉が食えないために、こういう異常に柔らかい肉を喜んで食って持て囃していたわけだが、言わばこれは老人食または病人食であり健康な歯を持つものが喜んで食べる類のものではない。
そういった都の文化人やグルメ評論家の事情を知らず言葉を真に受けてなんでもかんでも肉を柔らかくする、それが都の俗物的な風潮であり不自然で不健康で老いた食文化、都の食だ。
それに比べてうちの地方の肉はなんという自然で健康的で若々しいのか。分厚い赤みの肉を噛んで食べる、文句の付け所の無い食文化。
よって当然この戦いもこちらの勝ちで、なんという歯応えの無い敵だ。こういう柔らかいものと甘いものばかり食べているから軟弱になる。
ここでもアカメは勝利宣言をし、さてお会計の際にも驚いた。高い、高すぎる! あんな三枚程度の肉切れだけであのお値段?
ここが噂の傾奇町名物ぼったくりなのか? 朝草だから油断したわ! おのれ田舎者だからと言って馬鹿にしくさって!
えっなになに? 当店は昔からこのお値段でやっております? あの王子? あっはい、ここはこのぐらいですか、そりゃどうも失礼しました。
うーむとんだ恥をかいたが……しかし、なるほど席料ということか……ハッ所詮は観光地か、なるほどね! お前の負けだ都会!
ということでここでもアカメは一敗地に塗れることなく勝ちを拾った。
なんでもかんでも観光地にして客から高額料金をとることを当然だと信じて疑わないその性根、卑し!
そんなことは真っ当な人間の生活するところではない。そうだとも都に来たからには都のご自慢の銘酒を注文したところ、なんと無いとのこと。
無いってなに? だって水がある場所に人は集まり町が出来き繁栄することで文明が発展、そのうち楽しい生活のために余剰穀物で酒が造られ必然的に酒の蔵元が出来るのは道理なはず。
あるにはありますがごく小さい酒蔵でしてこちらはちょっと、あるとしましたこちらのが一番近場ので……と出して貰ったのはなんとうちの地元の隣の見慣れた酒じゃないか!
なんたるちや! まさか酒すらも他所頼り! 話によると都はもともと水が良くない場所なのか、ますますもって人が住む場所ではない!
質の良くない水を飲むのは人間の質を悪くする! よって都よお前の負けだ! と勝ち誇りながらアカメは一献傾けた。
おいおいどうした都会さんよぉ! おまえちょっとだらしねぇんでないか! とアカメはあらゆる点で都会と地元を対決させそして破竹の勢いで撃破し続ける脳内勝利を納め続けた。
卵焼きを食べても顔をしかめる、なんだこれ!? 砂糖がどっさり入って甘いぞ! お菓子じゃないんだぞまったくもー!
やたら砂糖と醤油を使うってそれは保存食のつくり方だしなんなら鮮度の落ちる肉類を誤魔化す手法じゃないかやだー!
ああ、また勝ってしまった。語れば語るほど都に勝つ要素しか見当たらない。そろそろ敗北を知りたいところだ。
そんなしかめ面をしながらものを食べているのを察せられたのかアカメは王子に連れられてザギンへと。
王子、いったいどこへ? あれは傾奇座。あの私は今回このような芸術を楽しむわけには……えっ違う?
その向かい側にあるあのお店に? あの熱烈な看板? その、高級な中夏料理屋もちょっと……そうじゃない?
陽高屋? 首都圏にしかない鎖店? あの、お高いんでしょ? おぉっとやっす、なにこれ旨い。
馬鹿な……最高の地価だけを誇るザギンでこんな安値でこのクオリティの味を提供するだなんて……酔狂または傾奇者よ! なるほど場所は関係ねぇ地価なんぞ知ったことかと中指を立てるその態度、傾奇座と向かい合うだけあるわ。
負けた……良いだろう、ここは負けてもよいところだ、といった余裕綽々で気持ち良く敗北を味わいながらアカメは上京中はずっとこのような如何に都が駄目かを脳内完結し続けた。
彼にとって輝かしい人生の時の時である。すごいすごいと騒がれていたやつが実は大したことが無かったということが分かる快感。
これまで暗にあの人はすごくてあなたはすごくない、と比べれて傷つけられてきたコンプレックスが癒されていくような気分である。
都と戦うためにアカメは地元と合体していた、彼こそが地方民というものの概念そのものでありその反都会主義の象徴そのもの。
都会のメシは高くてまずい! と言いたいがために高い店に入ってガッカリ……いや、大満足して土産話にするのだ。
こうして彼は自己肯定感ならぬ地元肯定感を高めて日々の生活を満足させる。
旅の目的がやっぱり我が家が一番と心から思わせるのが目的であるとしたら、上京もまたやっぱり地元が一番と思わせるのが理想だろう。
幸せの青い鳥を捜す旅だって旅先では見つからずなんと自分の家にいたというのはそういうメッセージなはず。
アカメはその境地に入っている。だから自信を持って脳内妻に語りかける。
カツテ……君は間違えている、と。アカメは上京しそして生まれ変わる。
次回「わが娘よテツを婿にして地元に残りなさい。お父さんの命令は絶対!」