六点差の向こう側にある優勝

10年後エピローグ

10年って、思ったより短いのか長いのか分からない。
気づいたら、あの体育館の匂いはもう思い出の中にしかなかった。
でも、全部が消えたわけじゃなかった。
形が変わっただけだった。
しょうへい
プロバスケットボール選手。
あの頃と同じように、コートに立っている。
でも違うのは、“一人で背負わない”ことを覚えたことだった。
「任せる」
その言葉を、今は自然に使えるようになっていた。
そして、その横にはいつももう一人の名前がある。
りゅうと
同じくプロの世界へ。
エースとしての爆発力はそのままに。
でも今は“チームで点を取る選手”になっていた。
しょうへいとりゅうと。
あの頃バラバラだった二人は、今は同じチームの中心にいる。
そして、その試合の裏側にいる男がいる。
るき
専属アナリスト。
数字を見る人。
でも、数字の向こう側を見ている人。
「このチームは、まだ伸びる」
そう言いながら、コートの外から試合を作っている。
そしてもう一つの顔。
ミニバスの指導者。
小さな体育館。
まだボールをまともにドリブルできない子どもたち。
そこにいるるきは、昔と同じだった。
静かに見て、短く言う。
「そこ、半歩遅い」
それだけで、未来が変わる。
りょうとらい
二人は同じ会社にいた。
バスケットボールシューズとユニフォームを作る会社。
デザイン室。
「どんな選手が履くか」
それを考えながら作っている。
らいは言う。
「守れるシューズってあると思う?」
りょうは笑う。
「あるなら作るしかないだろ」
彼らの作るものは、もう“道具”じゃなかった。
“戦うための環境”だった。
そして、
たける
スポーツ飲料の研究職。
机の上には、試作のボトル。
「どうすれば最後まで動けるか」
そればかりを考えている。
ある日、試作品が採用される。
そのスポンサー契約の先にあったのは、
しょうへいとりゅうとのチームだった。
そして、誰もが知っている。
この世界は、全部繋がっている。
ゆな
大学を卒業し、今はスポーツ関連の仕事に就いている。
女子バスケ部のマネージャーだった時間は、
もう“仕事”の中に溶けていた。
ある日、テレビで試合を見る。
そこにいるのは、しょうへいとりゅうと。
そして、アナリスト席にはるき。
ユニフォームの裏には、
りょうとらいの会社のロゴ。
ベンチには、たけるの名前の飲料。
ゆなは思う。
「あの頃の全部が、今も続いてる」
でももう一つ思う。
「あの頃があったから、今がある」
ふと、昔のノートを開く。
そこには、あの言葉が残っている。
「優勝って、点数じゃない」
少しだけ笑う。
そして、静かに閉じる。
体育館の音は、もう遠い。
でも、完全には消えていない。
どこかでまだ鳴っている。
ボールの音。
声。
靴の擦れる音。
そして、あの88-82。
それはもう“試合”じゃない。
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