逃げられるものならお好きにどうぞ。
「……あ、そろそろ年が明けるね」
黒瀬くんがポツリと漏らす。
テレビで画面の向こう側でも、アーティストたちがカウントダウンを始めていた。
そして、時刻が天辺を回ってすぐのタイミングで――インターホンの音が鳴り響いた。
「黒瀬くん、明けましておめでと、って……えっ」
――もしかして。
急いで玄関まで行って、扉を開ける。
「百合子さん。明けましておめでとう」
そこには、頭の上に薄っすらと粉雪をのせた黒瀬くんが立っていた。
「な、何で黒瀬くんが……間に合いそうにないって言ってたのに、どうして?」
「サプライズだよ。百合子さんのこと、驚かせたくて。びっくりした?」
「……うん。びっくりした」
「じゃあ大成功だ」って笑いながら、黒瀬くんは黒のショートブーツを脱いで上がってくる。
「あっ。でも次からは、誰か確認してから開けてね」
「うっ……はい、気をつけます」
インターホンを確認せずに扉を開けてしまったことは、黒瀬くんにバレバレだったみたいだ。
物騒な世の中だし、黒瀬くんの言う通りだろう。自分の非を認めて素直に謝罪する。
脱衣所にうがい手洗いをしに行った黒瀬くんを見送ってから、私はキッチンへと足を向けた。
ポットでお湯を沸かしてマグカップを準備していれば、背後から黒瀬くんに抱きしめられる。