逃げられるものならお好きにどうぞ。


「ねぇ、心配だから……虫除けしてもいい?」

「え、虫除けって何…ちょっ、」



黒瀬くんが首元に顔を埋めてくる。長い前髪が素肌に触れて、少しだけくすぐったい。

身をよじっていれば、首筋にチクリとした小さな痛みを感じた。



「百合子さんを迎えに行く前に、一旦家に帰って服とか持ってこようかな」



顔を離した黒瀬くんが、平然とした様子で話し出す。

今黒瀬くんが着ている服は、普段私が着用しているものだ。大きすぎて部屋着にしていたものだったけど、当然黒瀬くんには小さすぎて、長い手足が袖口からはみ出ている。



「……というか黒瀬くん、話を逸らそうとしても駄目だからね」

「え、何のこと?」



バッグから手鏡を取り出して首元を映せば、鎖骨辺りにくっきりと赤い花が咲いている。



「黒瀬くん……」

「ん?」



ジト目で見ても、黒瀬くんはにこにこと笑っているだけだ。

何を言っても無駄だと悟った私は、仕方なく首元まで隠れるハイネックのニットに着替えることにした。

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