逃げられるものならお好きにどうぞ。
「あ、あの、俺、お先に失礼しますね」
「え、林く、」
声を掛ける前に、林くんは駅までの道を足早に進んでいってしまった。
「……黒瀬くん、林くんに何かした?」
「何かって?」
黒瀬くんは完璧に作った読めない表情で、にっこり笑っている。
これは何を言ってもはぐらかされてお終いだろうと、直ぐに察してしまった。
(……まぁいっか)
林くんには、職場で顔を合わせた時にきちんと謝ろう。
林くんのことを思案していれば、それを遮られるように、黒瀬くんに空いていた左手を握られる。
「百合子さん、早く帰ろ」
黒瀬くんに手を引かれるまま、私も足を前へと踏み出す。もう目前まで見えている駅までの道のりを並んで歩いた。