逃げられるものならお好きにどうぞ。
「百合子さん。俺、しばらく仕事の方が忙しいから……中々会いにいけないと思うんだ」
「……そっか。仕事が忙しいならしょうがないよ」
年明けで混雑するのかもしれないし、それは仕方がないことだろう。
それに黒瀬くんが忙しいなら、私の方から会いに行けばいい話だ。
「仕事帰り、お店の方に顔出すね」
「……うん、ありがとう。しばらくは迎えにも行けないから、帰り道は十分気をつけて帰ってね」
「うん」
――何だろう。今一瞬、黒瀬くんの表情が強張ったような……戸惑いを隠すかのように瞳が揺らいだような気がしたけど……気のせい、かな。
違和感を感じながらも、微かすぎるその正体に気づけなかった私は、去って行く黒瀬くんの背中をいつものように見送った。