逃げられるものならお好きにどうぞ。


***


黒瀬くんの様子に違和感を覚えた翌日。

私は早速、仕事帰りに彼が働くバーに顔を出していた。


出迎えてくれたマスターに新年の挨拶をしてから、店内を見渡して黒瀬くんの姿を探す。



「あの、黒瀬くん、今は奥にいるんですか?」

「ん? 椿は休みだよ」

「え、休み?」

「ああ。何でも、しばらく立て込みそうとか何とかで、当分の間休ませてほしいって。長期休暇をとってるんだが……香月さん、聞いてないかい?」

「……はい」



てっきりバーでの仕事のことを言っているのだと思っていたけど――“副業”の方で忙しいということだったのだろう。


黒瀬くんは、副業に関することを話したがらない。

私も無理に詮索するのはよくないと思って、誰にだって人に言いたくないことの一つや二つあるのだからと、敢えて訊ねるようなことはしてこなかったけれど――どうしてだろう。

何だか、胸騒ぎがする。

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