逃げられるものならお好きにどうぞ。
「多分、椿は一生秘密にするつもりだろうから、教えてあげるけどさぁ……アイツ、結構ヤバい仕事してるんだよ」
「やばい仕事……?」
「あ、ヤバいって言っても、法に触れるようなことはしてないよ? ただねぇ、椿は腕っぷしが立つからさ。それを買われて、悪い連中にカチコミに行くこともよくあるわけよ」
「買われてって……誰にですか?」
「ヤクザの若頭」
「やっ、……!?」
思わず声を荒げそうになって、慌てて両手で口許を覆う。
萌黄さんはニヤニヤと笑ったまま、更に言葉を続ける。
「俺も若頭とは面識があるから分かるんだよねぇ。多分椿は、若頭直々に言われたんだと思うよ。女を危険に巻き込みたくなきゃ、身を引けーってね」
「それ、どういうことですか。その女って、もしかして……」
――私のこと?
萌黄さんはグラスの中身を呷って、私にとどめの一言を放った。
「だから椿の奴は、多分――もう君に会うつもりはないんじゃないかな」
「……何ですか、それ」
――もう会うつもりはない? 何それ、意味が分かんない。
そんなの勝手に決めないでほしい。
これだけ人の心にずかずかと踏み込んでおいて、何も言わずにいなくなるなんて……そんなの、あんまりだ。