逃げられるものならお好きにどうぞ。
「百合子さん? どうして此処に……」
「というか、黒瀬くん……後ろの人に気づいてたんだね」
黒瀬くんが不意を突かれてやられてしまうかもって怖くなって、思わず走り出していたけど……よく考えれば、武道の経験も一切ない私が、黒瀬くんを守れるはずもなかったよね。
とりあえず黒瀬くんが無事だったから良かったけど……今も心臓がバクバクしてる。
煩いくらいに激しく鼓動する胸元を手で抑えながら、安堵の息を漏らす。
その場で立ち止まっていれば、いつの間にかすぐ目の前まで歩み寄ってきていた黒瀬くんに顔を覗き込まれた。
どうして私がこんなところにいるのか分からないといった様子で、不思議そうな表情をしている黒瀬くんだったけど……それは一変した。
眉尻を下げた黒瀬くんは、心配そうな面持ちで私の頬に手を伸ばす。
「百合子さん、怖いことでもあった? まさかとは思うけど……こいつらに何かされたりした?」
黒瀬くんが親指の腹で、私の目の下をそっと拭う。
――自分でも気づかないうちに、泣いていたみたいだ。