逃げられるものならお好きにどうぞ。
「だって私、男とか女とか関係なく可愛いし?」
美代さんは「うふっ」と笑ってあざとくウィンクすると「というか、久々に本気出して疲れちゃった。椿、肩揉んでちょうだい」と私が座っていたソファ席に腰を下ろした。
どこまでも我が道を行く人だ。
黒瀬くんはそんな美代さんの言葉をサラッと無視して、買ってきた飲み物を手渡してくれる。
「はい、これ。百合子さんの分ね」
「あ、ありがとう」
「ちょっと椿、早く肩揉んでよね」
「はい、これは皇さんの」
「……何で嬢ちゃんのは冷たい紅茶で、俺のはお汁粉なんだ?」
「え、お汁粉とか、皇さん好きそうだなって思って」
「……いや、まぁいいけどよ。ありがとな」
「ちょっと椿! 無視してんじゃないわよ」
「ええ、何で俺が美代さんの肩を揉まなきゃいけないわけ? 皇さんに頼めば?」
「っ、はあっ!? し、慎二さんに頼むなんて、そ、そんなのできるわけ……」
「ん? 何だ、呼んだか?」
――カオスだ。目の前に、混沌とした空間が広がっている。
黒瀬くんは多分美代さんのことを揶揄っているのだろうし、美代さんは一人でテンパっているし、皇さんは……多分、何も分かっていないのだろう。
黒瀬くんが買ってきてくれた紅茶を飲みながら、騒がしいやりとりを静観しつつ――たまにはこんな賑やかな休日を過ごすのも悪くないなと、そう思いながら。
目が合った黒瀬くんと笑い合った。