逃げられるものならお好きにどうぞ。
「そういえば美代さんって、皇さんとは長いお付き合いなんですよね?」
「えぇ、まあね。元々慎二さんの部下として働いていたのよ」
「へぇ。それじゃあ、一緒に働く中で皇さんのことが好きになったんですか?」
「ま、まぁ……そういうことになるわね」
美代さんは頬をぽっと赤く染めてボソリと呟いた。照れている表情が可愛らしい。
「……私って、元々女顔だったからね。周りの男どもから舐められることも多かったのよ。でも慎二さんは私の能力を買ってくれて、信じて仕事を任せてくれるから……あの人のことは、上司としても尊敬してるのよ」
「そうなんですね。……とっても素敵な関係ですね」
皇さんのことを話す美代さんの瞳は、きらきらと輝いて見える。
いつもの大人びた表情とはまた違った、少女のようなあどけなさが垣間見えて、美代さんが心から皇さんを慕っているのだということが伝わってくる。
「それなのに椿ったら、慎二さんにも生意気なこと言ったりして……そもそも私の方が先輩なんだから、私を敬いなさいって話なのよ」
「あれ、黒瀬くんと美代さんは、同期とかってことではないんですか?」
「そうよ、私の方が先輩なの。椿は一時期、私の家に住んでたことがあったんだけど……その時に、私が椿を慎二さんに紹介したのよ。そしたら慎二さんが椿を気にいって、一緒に働くことになったの」
「そうだったんですね」
私は黒瀬くんについて、まだまだ知らないことがたくさんある。
初めて知る黒瀬くんの過去に――知れて嬉しい気持ちと同時に、彼のことをもっと知りたいという欲が、当然生まれてきてしまうもので。