逃げられるものならお好きにどうぞ。


***


「百合子さん」



にこにこ。私の目の前で満面の笑みを浮かべている黒瀬くんが、無言で手を差し出してくる。



「……はい、どうぞ」

「うん。ありがとう」



今日はバレンタインデー当日だ。

仕事終わりに家に寄ってくれた黒瀬くんに上がってもらって、用意していたものを手渡す。


嬉しそうに受け取ってくれた黒瀬くんは、私に了承を取ると早々に紙袋の中を確認して、「あれ」と不思議そうな声を漏らした。



「チョコレートと……他にも何か入ってる?」

「うん。気にいってもらえたらいいんだけど」

「……ピアスだ。これ、百合子さんが選んでくれたの?」



中から出てきたのは、小ぶりのシルバーのピアス。

いつもピアスを付けている黒瀬くんに似合うと思って、悩んで悩んでやっと選んだものだ。



「その、黒瀬くんいつもピアスをつけてるから……選んでみたんだけど」



――気にいってもらえただろうか?



男性のファッションには疎い方だと自覚があるから、正直あまり自信はない。


ピアスをじっと見つめている黒瀬くんの反応をドキドキしながら待っていれば、黒瀬くんはラッピングを解いてピアスを取り出した。

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