逃げられるものならお好きにどうぞ。
「まぁ……俺は百合子さんのことを子ども扱いしたことなんて、一度もないけどね」
その言葉の直後。
黒瀬くんの大きな掌が私の右頬に触れたかと思えば、顔の向きを変えられて、そのまま口づけられた。
触れ合った唇は数秒もせずに離れていったけれど、最後にチュッとわざとらしいリップ音を立てられる。
「……ほら、子ども相手にこんなキス、できないだろ?」
見つめ合ったまま、至近距離で囁かれたことで、身体中が急速に熱を持つ。
「こ、此処、外!」
「うん、知ってるよ?」
「だ、誰かが見てるかもでしょ!?」
「別に俺は見られても困らないけど? むしろ百合子さんは俺のだって見せつけてやりたいくらいだし」
「っ、……もういいから! ほら、早く行くよ! ランチタイムが終わっちゃう!」
「ふっ。うん、そうだね」
「……」
最後の負け惜しみにと、もう一度無言でグーパンチをお見舞いする。
さっきよりも力をこめた私のパンチに、黒瀬くんは「いてっ」と脇腹を抑えて声を漏らしながらも――その声音は、やっぱり痛くも痒くもなかったんだろうなということが分かるくらいには、楽しそうに揺らいでいた。
……やっぱり黒瀬くんには、早々敵いそうにない。