逃げられるものならお好きにどうぞ。
「ちょっと、黒瀬くん」
「何?」
「……まだ夕方ですけど」
「……だめ?」
「……だめです」
下から見上げられて、そのしゅんとした表情に負けそうになるけど、何とか堪えて言葉を紡ぐ。
そうすれば黒瀬くんは「残念」と口許を緩めながら、私の額にリップ音を立ててキスを落とした。
――危なかった。このまま流されるところだった。
黒瀬くんは自分の顔がいいことを自覚しているから、余計にたちが悪い。
「……あ、そうだ」
黒瀬くんが呟く。
「どうしたの?」
「京都でしたいこと、思いついたよ」
黒瀬くんも、何かしらの“やりたいこと”を思いついたみたいだ。