逃げられるものならお好きにどうぞ。
「というか、百合子さん……」
「……何ですか」
「いや、普段はぺったんこで薄すぎるくらいなのに、今はお腹がちょっとだけポコッとしてるから……何だか可愛いなって」
「うっ……」
――そう。つい先ほどの夕食でいつも以上に食べ過ぎてしまった私のお腹は、平常時に比べてほんの少しだけ、ぽっこりと膨らんでいるのだ。
黒瀬くんの大きな掌が、湯の中で私のお腹をゆるりと撫でる。
指摘されたことで余計に恥ずかしさが込み上げてきた私は、勢いよく立ち上がって温泉から一足先に出る。
「っ、先に上がるね!」
「え、もう?」
「もう!」
「えぇ、ぽっこりお腹の百合子さん、もっと堪能したかったなぁ」
「……そんな意地悪ばっかり言うなら、もう黒瀬くんとは、一緒に入らないからね!」
――多分、今の自分の顔は真っ赤だろうし、年甲斐もないふくれっ面をしていると思う。
ニコニコと悪びれた様子もなく笑っている黒瀬くんにジト目を向けてから、フンッと顔を背けて、一人で室内へと戻った。