逃げられるものならお好きにどうぞ。
身体を拭いて、貸し出してもらった淡い花柄の色浴衣に袖を通して、ドライヤーで髪を乾かしていれば、遅れて上がった黒瀬くんがやってきた。
一瞬だけそちらに目をやれば、白い縞模様が入った濃紺色の浴衣を身に付けている。……悔しいけど、すごく似合ってる。格好良すぎてズルいくらいだ。
「ゆーりこさん」
「……」
「浴衣、可愛いね。似合ってるよ」
「……ありがと」
「……ねぇ百合子さん、まだ怒ってる?」
ドライヤーの温風に紛れて確かに耳に届いた声は、弱々しくて覇気がない。
電源を切ったドライヤーを置いて、チラリと視線だけ向ければ、しゅんとした子犬みたいな表情をした黒瀬くんがいて、私をジッと見つめている。
「怒ってるよ。……ちょっとだけ」
「……ごめんね?」
コテンと小首を傾げている黒瀬くんは、自分の顔がいいことを自覚してやっているに違いない。そして、それに気づいているのにコロッと絆されて許しちゃう私は、馬鹿な女なのかもしれない。……これが惚れた弱みってやつなのかな。
でもまぁ、せっかく旅行に来てるんだから、仲良く楽しみたいしね。
「……仕方ないから、許す」
その一言を伝えれば、黒瀬くんの顔は瞬時に明るくなった。