逃げられるものならお好きにどうぞ。


身体を拭いて、貸し出してもらった淡い花柄の色浴衣に袖を通して、ドライヤーで髪を乾かしていれば、遅れて上がった黒瀬くんがやってきた。

一瞬だけそちらに目をやれば、白い縞模様が入った濃紺色の浴衣を身に付けている。……悔しいけど、すごく似合ってる。格好良すぎてズルいくらいだ。



「ゆーりこさん」

「……」

「浴衣、可愛いね。似合ってるよ」

「……ありがと」

「……ねぇ百合子さん、まだ怒ってる?」



ドライヤーの温風に紛れて確かに耳に届いた声は、弱々しくて覇気がない。

電源を切ったドライヤーを置いて、チラリと視線だけ向ければ、しゅんとした子犬みたいな表情をした黒瀬くんがいて、私をジッと見つめている。



「怒ってるよ。……ちょっとだけ」

「……ごめんね?」



コテンと小首を傾げている黒瀬くんは、自分の顔がいいことを自覚してやっているに違いない。そして、それに気づいているのにコロッと絆されて許しちゃう私は、馬鹿な女なのかもしれない。……これが惚れた弱みってやつなのかな。

でもまぁ、せっかく旅行に来てるんだから、仲良く楽しみたいしね。



「……仕方ないから、許す」



その一言を伝えれば、黒瀬くんの顔は瞬時に明るくなった。

< 281 / 544 >

この作品をシェア

pagetop