逃げられるものならお好きにどうぞ。
「……大丈夫だよ。百合子さんが怖いことは何もないから。なるべく痛くないようにするし、優しくする。でも、もし途中でどうしても怖くなったり嫌になったりしたら、その時は我慢しないで言ってほしい。百合子さんのこと、大切にしたいから」
黒瀬くんは私の胸中を見透かしたみたいに、一つひとつの不安を取り除いてくれるように、言葉を紡いで届けてくれる。
頬に触れる温かな手に、真摯なまなざしに、私の中にある恐怖心が少しずつ小さくなっていく。恥ずかしさの方は……やっぱり消えてはくれないけれど。
「……うん、分かった」
覚悟を決め、頷いて返せば、目を細めて微笑んだ黒瀬くんの綺麗な顔が、ゆっくりと近づいてくる。
瞼を下ろして唇に触れる熱を待っていた、そのタイミングで――来客を知らせるインターホンの音が鳴り響いた。