逃げられるものならお好きにどうぞ。
「つまらなくなかった?」
「え?」
「その、美術館とか、黒瀬くん、あんまり好きじゃないかなって思ってたから……一緒にきてくれたことにもびっくりしちゃったっていうか……」
「……あぁ、なるほどね。確かに美術館なんて初めて行ったけど……結構楽しかったよ。お姉さんと一緒だったからかな?」
笑いながら話す黒瀬くんは、嘘を吐いているわけでもなさそうだ。
本心で楽しかったと言ってくれているのが伝わってきて、何だか嬉しくなる。
「俺的には途中にあった、あれ……浮世絵っていうんだっけ? あの波の絵とか、結構好きだなって思ったよ」
「……っ、ふふ、そっか」
真面目な顔で感想を言っている黒瀬くんを見ていたら、思わず笑みが零れてしまった。
おかしいとか、そういうことではなくて……これは嬉しいっていう意味の笑いだ。
自分の好きなものを知ってもらえて、少しでも興味を持ってもらえることは、やっぱり嬉しい。
クスクスと笑ったまま歩き続けていれば、黒瀬くんはその足を止めて、じっと私を見つめていた。
もしかしたら、笑われたと勘違いして気を悪くしてしまったのかもしれない。