逃げられるものならお好きにどうぞ。
「あのね、黒瀬くん、今笑ったのは…「先に謝っておく。ごめんね?」
慌てて弁明しようとすれば、足を一歩二歩と踏み出してあっという間に距離を詰めてきた黒瀬くんが、何故か謝罪の言葉を口にする。
どういう意味かと顔を上に向ければ――黒瀬くんの顔が、すぐ目の前に迫っていた。
唇に、ふにゃりと柔らかなものが触れる。
多分、数秒にも満たなかっただろう。
触れた唇は、小さなリップ音を立てて離れていった。
「……。……なっ、」
「ん? どうかした?」
――っ、どうかした、じゃない‼
黒瀬くんはいつもと変わらぬ顔色で、平然とした様子で首を傾げている。
対する私の顔は、多分真っ赤に染まっていることだろう。