逃げられるものならお好きにどうぞ。
「……何で、キスしたの?」
「何でって……キスしたいなって思ったから」
あっけらかんと言い放った黒瀬くん。
悪びれた様子もなければ、照れている様子もない。普段通り、本当に何も変わらない。
――こっちは、絶対顔だって赤いし、心臓が、今にも死んじゃうんじゃないかってくらい、バクバク激しく音を立ててるっていうのに……‼
「っ、……もういい! ここからは一人で帰るから!」
「え? 何で? もう直ぐだし家まで送るよ」
「いいから! ついてこないで!」
「お姉さんってば、何でそんなに怒ってるの? ……もしかして、照れてる?」
「照れてない!」
黒瀬くんを追い越して、足早にアパートまでの道を進んでいく。
(ちょっとは良い子なのかもって、見直してたのに……黒瀬くんの馬鹿! 最低‼)
アパートまでの距離は残り百メートル程だったため、あっという間に到着した。
そのままエントランスに足を踏み入れようとすれば、背後から、黒瀬くんに引き止められる。