逃げられるものならお好きにどうぞ。


「ちょっと椿! 百合子ちゃんが攫われたって……本当なの?」



拓斗の後からやってきた美代が尋ねるが、椿は応えない。

口を閉ざしたまま、何を考えているのか読めない仄暗い瞳で、ジッと宙を見つめている。



「嬢ちゃんを攫った相手が誰か、分かったぞ」



辺りの穏やかなに賑わいと比例するように、重苦しい沈黙が流れる中――美代たちよりも一足先に神社に到着していた慎二が、スマホを耳から離しながら戻ってきた。

百合子がいなくなったと椿から連絡を受けた慎二は、心当たりを探るべく、組の舎弟たちに連絡をとっていたのだ。


慎二がやってくると、だんまりを決め込んでいた椿が直ぐに反応を示す。

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