逃げられるものならお好きにどうぞ。
「どこのどいつ?」
「葛木組の連中らしい。……俺のせいで、お前らを巻き込んじまった。ワリィな」
慎二が顔を苦渋に歪めて謝罪する。
どうやら昨夜、慎二と百合子が二人きりで歩いていたところを目撃されていたようだ。
つい先ほど、組の方に一本の連絡があったらしい。
“女を返してほしければ、指定の場所へ一人でこい”
「とりあえず、相手の狙いは俺だ。俺が言われた通りに一人で行けば、嬢ちゃんは無事に返してもらえるだろ」
「そんな、危険すぎます! それに、百合子ちゃんを無事に返してもらえる確証もないじゃないですか……! 慎二さんが行くなら、私も一緒に…「ウルセェな」
場の空気を瞬時に静寂へと変えたのは、低く剣呑な声だ。
それを発したのは――瞳を獣のようにぎらつかせた、椿だった。