逃げられるものならお好きにどうぞ。
「……誰のことですか?」
「いいよ、知らない振りなんてしなくても。彼、とんでもない男らしいよね。一人で複数人のヤクザ連中を圧倒的な強さで伸したり、相手が降参しても容赦なく暴力を振りかざして痛めつけたりする、冷酷で残忍な奴だって聞いたよ。忠犬っていうよりも、狂犬って表現の方が正しいのかな?」
「……」
――この人、さっきから何なの? 黒瀬くんのことを残忍だとか冷酷だとか、その現場を見たわけでもないのに、適当なことばかり言って……。
自分がムッとした顔をしているという自覚はある。
彼氏について好き勝手なことを言われて、良い気持ちになるわけがない。
多分この人は、そんな私の気持ちを見透かしたうえで、私の反応を見て、愉しんでいるのだろう。