逃げられるものならお好きにどうぞ。


「……黒瀬、くん……」

「……この人に、指一本でも触れた奴。今正直に名乗り出たら――半殺し程度で許してやるよ」



――まさか、本当に助けにきてくれるなんて。



ゆったりとした足取りで歩いてくる黒瀬くんの顔には、いつもの不敵な笑みも浮かんでいなければ、普段の余裕そうな雰囲気も、その面影すら感じない。

今にも喉元に噛みついてきそうな……獰猛さを感じる、獣のような形相をしていた。



「やぁ、皇慎二の忠犬くん。呼び出したのは若頭の方だったんだけど……まぁ、君にも会いたいと思っていたからね。ちょうど良かったよ」

「……」

「実は君に、話があってね。単刀直入に言うけど、正式にウチの組に入る気はないかな? ウチの方が金払いもいいし、君ほどの実力があれば、組の幹部として伸し上がるのも簡単だと思うよ?」

「……」

「あぁ、それに、君が望むなら…「さっきからお前さ、何? ……ウルセェよ」



糸目の男性の言葉を遮った黒瀬くんの口調は、いつもよりずっと低くて、荒っぽい。



「何か勘違いしてるみたいだけど、俺は皇組の犬になった覚えはねーよ。お前らのくだらねー揉め事に巻き込むな。死にたいのか?」

「ははっ、噂通りの狂犬ぶりだな。君を飼い慣らすことができれば、さぞや組のために貢献してくれるんだろうな」

「はっ、馬鹿じゃねーの。俺を飼い慣らせるとしたら……んなことできるのは、この世で一人だけだよ。俺は――その人だけのモノだから」



目が合った黒瀬くんは表情を和らげて、私を安心させるように微笑んだ。

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