逃げられるものならお好きにどうぞ。
「ふっ、ハハハッ! それじゃあ、この女がコッチ側にいる限り、お前は俺たち葛木組の言いなり、……!」
糸目の男性の言葉が、そこで途切れた。
何故なら、物凄いスピードで駆けてきた黒瀬くんが、躊躇なく飛び蹴りをしたからだ。
「ガハッ」と声にならない声を漏らしながら、男性は勢いよく吹っ飛んでいく。
そして、倉庫の奥の方に積まれていた鉄製のタンクの山に、派手な音を響かせて突っ込んだ。
「……おい、お前ら」
「ヒィッ……!」
「さっさとその薄汚ねぇ手、どかせよ」
私を取り囲んでいた男たちは呆然としていたけれど、黒瀬くんの一睨みで、サッと顔色を悪くする。
「うっ……うるせぇ! カタギの餓鬼が口出ししてんじゃねーぞ!」
「兄貴に手ぇ出した落とし前は、きっちり付けてもらうからな!」
「そうや!」
「いくぞお前ら! 餓鬼一人だ!」
けれどスキンヘッドの男の声を皮切りにして、他の者たちも奮い立つように声を上げながら立ち上がり、一斉に黒瀬くんに向かっていった。
でも黒瀬くんは多数相手にも一切怯むことなく、向かってきた男たちを軽々とあしらったり、見ているだけでも痛そうな蹴りや拳を容赦なくふるっている。
黒瀬くんの表情は、瞳孔が開き、口許には笑みを浮かべている。
まるで……喧嘩することを楽しんでいるみたいだ。