逃げられるものならお好きにどうぞ。
「っ、……百合子さん?」
「黒瀬くん。私はもう……大丈夫だから」
背後から抱き着けば、黒瀬くんは振りかぶっていた拳を宙で止めて、ゆっくりと下ろした。
「私のために、怒ってくれて……助けにきてくれて、ありがとう」
「……百合子さん、震えてる」
振り向いた黒瀬くんの口調は穏やかで、怖い雰囲気もすっかり消えている。
いつも通りの、私のよく知る黒瀬くんが、不安そうなまなざしで私を見つめている。
「……怖かったよね」
「……うん、すごく怖かった。でも黒瀬くんが来てくれたら、本当にもう大丈夫だよ」
「来るのが遅くなって、ごめんね」
「ううん。でも……どうして私の居場所が分かったの?」
「前にも言ったでしょ? 百合子さんが近くにいたら、俺、すぐに気づけると思うって。……まぁ、皇さんからの情報のおかげでもあるけど。近くまで来たら、この倉庫から百合子さんの気配を感じたから」
「……やっぱり黒瀬くんは、犬みたいだね」
「ははっ、百合子さんの犬になるなら、それもいいかもって思ってたけど……」
黒瀬くんが、私の額に優しいキスを落とした。そのまま、私を抱きしめる。