逃げられるものならお好きにどうぞ。
「……あの、どこまでついてくる気?」
「どこまでって……どこまでも?」
「……」
どう突っ込めばいいのか。呆れて言葉も出ないです。
「というか黒瀬くんって、見かける度に女の人と揉めてる気がするんだけど」
先ほど見た光景を思い出し、何気なく口にする。
呆れて言った言葉だったけど、どう捉えたらそうなるのか、「え、もしかしてヤキモチ?」だなんて。
……黒瀬くんへの言葉は、どうしてこうも湾曲して伝わってしまうんだろうか。
もう反応するのも面倒で無言で歩き続ければ、黒瀬くんも特に気にした様子はなく、私の隣にピタリと並んでついてくる。それにしても……。
(本当に、綺麗な顔してるよなぁ)
横目に見て、その顔面の綺麗さに感心にも近い気持ちを抱いていれば、視線に気づいたらしい黒瀬くんがこちらを見下ろしてくる。
「何? もしかして惚れちゃった?」
「大丈夫。君のことを好きになることは絶対にないから」
「なぁんだ。残念」
残念だなんて微動も思っていなさそうな顔でクスクスと笑った黒瀬くんは、本当にどこまでもついてくる気のようで、私の目的地である劇場の中まで、当然のように入ってきた。