逃げられるものならお好きにどうぞ。


***


「なっ……何これ……」



朝起きて洗顔を終えた私は、鏡に映る自分の姿を見て、固まってしまった。

襟元を下ろしてみれば、鎖骨の辺りから胸元まで散らばっている、無数の赤い花。これが所謂キスマークだということはすぐに分かったけど、それにしても、この数は……。



「虫除けだよ」



脱衣所にひょっこり顔を出した椿くんは、何食わぬ顔でニコリと笑って言うけど、そんな返答で納得できるわけがない。



「……虫除けって、何のために?」

「もちろん、後輩くんが悪さをしないためだよ」

「だとしても、これはやり過ぎじゃないかな……!?」



そもそも、出張に行くのはまだ先の話だ。

というかこれ、服で隠せるよね? Vネックなんかの襟ぐりが開いた服は、しばらく着れないだろうし……。

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