逃げられるものならお好きにどうぞ。
不満の気持ちを込めてジトリとした目を向けてやれば、コテンと首をかしげた椿くんは、何故か自身の着用しているスウェットの襟元を引っ張る。
「百合子さんも、俺に虫除けする?」
「……どうしてそうなるわけ?」
「だって、そしたらおあいこになるだろ?」
――って、私が言いたいのはそういうことじゃないんだけど……!
「そもそも、そんなのやったこともないし……」
「それじゃあ俺が教えてあげるから、よく見ててね」
距離を詰めてきた椿くんは、私の胸元に顔を埋めてくる。
「ちょ、ちょっと待って……んっ」
チクリとした痛みが走って、堪らず声を漏らしてしまう。
「……」
「つ、椿くん? どうし…って、ちょっと、どこ触ってるの……!」
何故か真顔になった椿くんは、何かのスイッチが入ってしまったのか、不穏な空気を醸し始める。
その手がするすると服の中に侵入してきたものだから、私の中の危険信号がチカチカと光って警告を知らせ始めた。