逃げられるものならお好きにどうぞ。
「分かりました。私が家まで送っていきますね」
「ありがとう、助かるよ。今椿を連れてくるから、少し待っててね」
そう言って私の前にノンアルコールのカクテルを置いたマスターは、店の奥の方に姿を消す。
グラスには綺麗なブルーの液体が注がれている。一口飲んでみれば、甘酸っぱいブルーベリーのような味がした。
そのまま有難くカクテルを頂いていれば、マスターの肩に凭れ掛かった黒瀬くんが、よろよろと覚束ない足取りで歩いてくる。
「……お姉さん、本当にきてくれたんだ」
「そりゃあ、約束したし……きますよ」
「……うん。ありがとう」
いつもの作り物みたいに綺麗な笑い方じゃない、ふにゃりと笑った黒瀬くんの表情が少しだけ幼く見えて、何だか少し、ドキッとしてしまう。
マスターから黒瀬くんを受け取って、カクテルの代金を支払おうとすれば「椿の送り賃だよ。足りないくらいだろうけど、受け取ってくれ」とタクシー代まで手渡してくれた。