逃げられるものならお好きにどうぞ。


「黒瀬くん、今までの誕生日はどんな風に過ごしてたの?」



何気なく聞いてみれば、高校卒業までは施設で育ったことや、施設を出てからはお金もないから、女の人の家を転々としていたことを教えてくれた。


黒瀬くんのこれまでの生活ぶりを聞いて、つい先ほど目にした、ぼろぼろのアパートを頭に思い浮かべる。



「黒瀬くんは、その……今はあのアパートに住んでるんだよね?」



この言葉だけで私が言いたいことを察したのか、黒瀬くんは「あぁ」と何にも気にしてないような口調で話す。



「あそこ、すごく古いよね。でも別に今は、お金がないとかじゃないよ。ただ引っ越すのが面倒なだけ」



住む場所にも困っているくらいお金がないのかと思っていたけど、どうやらそうではないらしい。


年下で、しかもギリギリその日暮らしの生活を送っていた男の子にご飯代や映画のチケット代を奢ってもらってしまったと、内心でとてつもなく居た堪れない気持ちになっていたので、それを聞けて少しだけホッとしてしまった。

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