逃げられるものならお好きにどうぞ。
「俺さ、子どもの頃はずっと施設に住んでたし、誕生日でも我儘とか口にするのって、何となくできなかったんだよね」
「……うん、そっか」
「だからさ、お姉さんが俺の我儘聞いてシチュー作ってくれて……嬉しかった」
「もう十分。最高の誕生日になったよ」って笑っている黒瀬くんに、私は何だか、胸がぎゅっと苦しくなる。
――だって、誕生日のケーキは慌ててコンビニに買いに行ったものだし、食事だって、冷蔵庫にある材料で作っただけのシチューだ。人参もなかったから、具材なんてじゃがいもと玉ねぎと少しのお肉くらいしか入れられなかったし。
黒瀬くんは、きっとたくさんの女の子からお祝いしてもらえるのだと思っていたから……なんて、ただの勝手な言い訳になってしまうけど。
こんなに喜んでもらえるなら、プレゼントだって、きちんと用意しておけたらよかった。