逃げられるものならお好きにどうぞ。


***


アパートまでの帰り道を黒瀬くんと並んで歩くのも、これで何度目になるだろうか。

私の左隣を歩いている黒瀬くんをジト目で見上げる。



「……黒瀬くん。私が言いたいことは分かってるよね?」

「ん? ……俺のこと、好きになったとか?」

「っ、違う! そうじゃなくて……何でキスしたのかってこと! しかも、あんな人前で……」

「何でって……したくなったから?」

「その言葉、前にも聞いたよ……!」

「というか、人前じゃなかったらキスしていいんだ?」



意味ありげに微笑を深めた黒瀬くんに、じっと見つめられる。


その真っ黒な瞳に捉えられると、心の内を全部見透かされてしまいそうで――もう逃げられないって、そんな錯覚を起こしてしまいそうになる。

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