逃げられるものならお好きにどうぞ。
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アパートまでの帰り道を黒瀬くんと並んで歩くのも、これで何度目になるだろうか。
私の左隣を歩いている黒瀬くんをジト目で見上げる。
「……黒瀬くん。私が言いたいことは分かってるよね?」
「ん? ……俺のこと、好きになったとか?」
「っ、違う! そうじゃなくて……何でキスしたのかってこと! しかも、あんな人前で……」
「何でって……したくなったから?」
「その言葉、前にも聞いたよ……!」
「というか、人前じゃなかったらキスしていいんだ?」
意味ありげに微笑を深めた黒瀬くんに、じっと見つめられる。
その真っ黒な瞳に捉えられると、心の内を全部見透かされてしまいそうで――もう逃げられないって、そんな錯覚を起こしてしまいそうになる。