逃げられるものならお好きにどうぞ。
「……ねぇ。もしかしてお姉さん、ヤキモチ妬いてる?」
暫く無言で歩いていれば、足を止めた黒瀬くんに手を引かれ、そのまま顔を覗き込まれた。
「やっ、きもちなんて、……やいてないから」
何故か声が上擦ってしまった。
恥ずかしくなって、黒瀬くんの視線から逃げるように顔を逸らせば、左隣からクスクスと笑い声が届く。
「そっか。でも、もうお姉さん以外の女の人の家に行くつもりはないから、安心してね」
「別に……心配とか、してないですから」
「ふっ、そっか」
「……何で笑ってるんですか」
「んー? やっぱりお姉さんは可愛いなあと思って」
また、黒瀬くんに揶揄われている。
悔しくなって歩く速度を速めてみたけど、私よりずっと足の長い黒瀬くんは、そんな些細な歩幅、あっという間に埋めて追いついてくる。
「そういえば、俺の作ったカクテルはどうだった?」
「……美味しかったよ」
「ほんとに? よかった」
黒瀬くんが、嬉しそうに笑っている。
その横顔を見ていたら、自分でも単純だとは思うけど――私の胸の中のモヤモヤは、いつの間にか、綺麗さっぱり消えてしまっていた。