Fahrenheit -華氏- Ⅲ
オードブルが運ばれてきて、葵さんは料理を目に、またも目をまばたく。
ギャルソンがあたしたちのテーブルにお皿を置き、見るも鮮やかな料理を手で差し示し
「本日のオードブル、フレッシュサーモンのカルパッチョと、ホワイトアスパラガスとグリーンピースのピューレ。ハマグリのサフランソースのカプチーノ仕立て。
こちらはパテ・ド・カンパーニュになります」
と一通り説明してくれたが
葵さんは
「パテ……?」と目をまばたき。
「パテ・ド・カンパーニュです。豚肉と鶏レバーを混ぜ焼いたものです」と説明を加えると
「へー…」と葵さんは頷く。「ごめん、こんな高級な食事初めてだからさ」と葵さんはへらへら笑って頭の後ろを掻く。飾らない素直な人だ。
前科を考慮するとどうかと思うが、あたしにとって彼の前科はどうでもいい。ただ強請れるネタでしかない。そのことを差し引いても、こういう人、嫌いじゃない。
「いいえ、お気になさらず。それよりも再度お伺いしたいのですが、あなたと二村さんはどう言ったご関係で?」左右に並べられたカトラリーの一番外側からフォークとナイフを取りパテ・ド・カンパーニュにナイフを入れる。
葵さんもあたしの動作を見て、ぎこちなく真似をし、同じく料理にナイフを入れた。
切り分けた肉片を口に入れながら
「答える義理がないって言ったら?」と目を上げる。
「そう言われたときに対策はとってあります」あたしも同じく肉片を口に入れ、ゆっくりと咀嚼して、少しだけ上唇に舌を這わせ、膝に置いたナプキンで口元を拭った。
「絶妙な味ですね、さすがミシュランの星をとっただけあります」
「はぁ…」
葵さんは急に食欲が失せたと言った具合に、フォークとナイフをお皿に投げ出し
「俺を警察に突き出すって?あんた可愛い顔してるのにえげつないね」
とため息。
「どうも。褒め言葉だと受け取っておきます」あたしはそっけなく答えると
「完敗だよ」彼は『お手上げ』と言った感じで両手を上げる。
「いいよ、教える。
けど、これだけは言っておく。
空汰は手強いよ?」
葵さんが意地悪そうに笑みを浮かべ、あたしを指さし
「心得ていますので、ご心配なく」
あたしはまたもそっけなく言い、カンパーニュの味をワインで流し込んだ。