Fahrenheit -華氏- Ⅲ


料理はすでにヴィアンド(お肉料理)に入っていた。


松坂牛のグリエ、焼き加減は絶妙なレア。ギャルソンが運んでくれた新たなナイフで切り分けたそれを一口口に入れ


「流石松坂牛。あなたもどうぞ」


切り分けたお肉から先ほどの―――葵さんと同じ色の血のような赤が滲み出て、彼は無理やりと言った感じで苦笑いを浮かべた。



「引き受けるけどさー、そこんとこ信じてよ。俺は裏切ったりはしないよ?金さえもらえればね」


彼は“松坂牛”と言うワードに反応して、すぐさまそのお肉にナイフを入れる。あたしが彼の指にナイフを入れたこと、まるで気になってない様だ。


単なるバカか、それとも相当狡猾か。


今のあたしにはどちらか分からない。けれど利用できるものは利用する。


あたしは契約書に¥200,000と書きこみ、その一枚を葵さんに手渡した。


「これはあなたに。もし私があなたに20万をお支払しなかった場合、同様にそれで裁判ができます。


これでイーブン」


あたしが言うと、彼はちょっと苦笑い。


けれどすぐに食事を再開させ


「でも空汰もな~、あんなミミちゃんに一途だったのに、いきなり副社長の娘と付き合うとか、やっぱあいつも所詮は金だったんか~」




葵さんは松坂牛を口に入れ、宙を見上げる。


「ミミちゃん?」一途―――……?




誰―――?




「瑞野 みゆきで、俺はミミちゃんて呼んでる」


「瑞野…」みゆき―――


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