Fahrenheit -華氏- Ⅲ
裕二がくわえたばこのまま、焼酎をつぎ足し
「なるほど、そこいらのことあんま詳しくないけど、村木って言えば物流管理本部の長だろ?まぁ会社の中枢っちゃ中枢だな。二村は村木に取り入ったか」
と煙を吐き出す。
俺も一瞬そう考えた。
「でもさー、それだとちょっと辻褄が合わなくない?」
桐島はソファに置いてあったクッションを抱きしめながら頬杖を付き、目を細める。
「辻褄?」床に胡坐をかいていた裕二が顔をあげた。
「だって緑川さんが居るのって今村木…部長?の所でしょ?」
「辻褄、合うじゃんか」と裕二が眉をしかめる。
「そうねぇ」と綾子も顎に手をやり裕二に賛同する。
「いや、桐島の言った通り、辻褄が合わない。村木は緑川を厄介なお荷物扱いだ。こないだも派手に怒鳴り散らしてたしな。
副社長の娘だからって容赦がないヤツだ。村木が緑川派に寝返ろうとしたのなら、緑川にもそんな対応しないだろ。後々あいつの席が危うくなる」
フロアも違うし、まったくの畑違いなのに、何故桐島がそう言いだしたのか謎だったが…
「俺、聞いちゃった、て言うか愚痴られたんだよね。緑川さんから。村木部長がガミガミ煩くて、怖いって。
あ、たまたま社食で一緒になったときね、相席したんだ。俺はあんま詳しくないから適当に相槌打ってたけど。啓人と同期だから、話しやすいと思ったんじゃない、緑川さんは」
ま、緑川も相談する相手が間違ってたな。
こいつ、緑川の話の半分も覚えてねーぞ。
でも時々――――鋭い。
「話は戻るが、あの会食は確か村木は…親睦会と言うか同窓会みたいなことを言っていたが…」
裕二はタバコを口から抜き取り、
「村木の嘘じゃね」と眉間に皺を寄せる。
「いや、村木が嘘をついてたわけじゃない」俺が言うと
「めっずらし~村木次長の肩を持つなんて」綾子が目をぱちぱち。
「明日は槍が降るかもね」と桐島はのほほん。
………
「うっさいボケ!!人がシリアスになってるってのに!」
「「「啓人がシリアス!」」」
三人が俺を指さし声をあげて笑った。