Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「その証明活動の発起人は恐らく二村だ。
集まった署名…恐らく本社の半数以上だろう、それを緑川副社長に提出して、副社長は神流派を倒せるキッカケができたと狙い、神流派の瓜生常務に見せたんだ。
恐らくそれは緑川副社長の手から直々に渡ったに違いない」
「なるほどねぇ。表面的には仲良く見えるけど、所々常務は会長の発言に苦い顔を見せることがあったわ。嫌いではないけれど賛同しかねる部分もあったかもしれないわね」綾子も頷く。
「それを利用したんだ。恐らく秘書課に居る瑞野さんを使って会長の側近の関係を探らせたんだろう。そこで浮上してきた。とっておきの人物を。
あいつの頭のいいところは自身の部署にそれを回していない。現に村木は俺と娘を本気でくっつけようといたぐらいだからな。陰険村木なら、風向き次第でどっちにでもなびきそうだし」
「つまり今の所、村木さんは神流派だと言うことだよね」桐島が確認するように聞いてきた。
「何が言いたいんだ?」裕二が目を上げる。
「まだ分からない?これでイーブンてことだよ。啓人と村木…さんが、タッグを組んだら勝ち目が見えてくる。
二村くんだっていがみ合ってる二人が手を組んだと思わない筈」
「は!それは薩長同盟を結べってか!」
俺が勢い込んで桐島の肩を掴むと
「う……うん…」と桐島は少したじろいだ。
「神流の中枢にいるのは二村クンだけじゃないし、村木さんは長年勤めてるから、それなりに人脈もあるだろうし、
何よりあの人なら内部事情を調べられるかもしれない」
「なるほどぉ」綾子がポンと手を叩いた。
「なるほど、じゃねぇよ!だ・れ・が!あいつなんかと……さっきも言ったろ!風向き次第でどっちでもなびくって、な」
俺は手をわなわなと震わせた。
「そうかな~、そいう言うタイプには思えないけれど」桐島は首を傾ける。
「何でそう思うんだよ」俺が桐島を睨むと
「勘」とアッサリ一言。
「何だよ、“勘”って!」再び俺が桐島の肩を掴みかかろうとしていると
「ちょっと桐島くんに何するのよ」と綾子が喚き
「まぁまぁ。四の五の言ってないでさ、こうするのが早道、いや…それしか無いんだよ。諦めて腹くくれよ。じゃないと柏木さんと一生このままだろ?」
瑠華と―――このまま―――
離れ離れ……
手を伸ばせば届くのに、絶対に掴めない。