Fahrenheit -華氏- Ⅲ
でも、葵さんのファインプレーで助かったのは事実だ。
「ありがとうございます。さっきは……すみませんでした」
「いいよ、いいよー。俺、空汰と付き合い長いからサ、あいつがやりそうなこと分かってるって言うか」
なるほど。
やはりこの男、葵さんはあたしにとって『ジョーカー』
引いた札が思いのほか強かったことにあたしは心の中で笑った。
あたしたちはその場で別れることになった。
葵さんは免許証の住所は上野になっていた。逆方向と言うことであたしはタクシーで、葵さんは山手線で帰る、と言う。
葵さんはタクシーを拾うまで付き合ってくれて、タクシーが到着してあたしが乗り込むまで見届けてくれた。
意外と律儀??
「瑠華ちゃん、まったね~♪」と明るく手を振りながら、タクシーが遠ざかっていっても、尚彼は手を振っていた。
まるで子犬のようだ。
あたしは後ろを振り向きながら、しかし彼の姿が完全に見えなくなると小さくため息。
……疲れた。
脅すようなことをしたから、と言うのもあるけれど彼……葵さんのテンションについていくのが大変だ。
できればそう会いたくないものだ。
あたしは心音に電話を掛けた。
『Morning!』
心音の明るい声を聞いて、またほぉっとため息が出た。疲れとかじゃない、ほっとしたからだ。
葵さんのテンションはどっちかと言うと心音に似てるけど、でも全然違う。
まぁ心音の事は昔から良く知ってるから。
そう言えば啓も心音のテンションについていけなかったわね、最初。
思い出して「ふっ」と喉の奥からため息が漏れた。