Fahrenheit -華氏- Ⅲ

『あたしの情報、役に立った?』


と電話の向こうで心音がわくわくと楽しそうに笑う。


その口調は新しいイタズラを考えた子供のような口調だった。


「ええ、大いに。ありがとう心音。ごめんね、朝早くに。ゆっくり休んで」


一言お礼だけ言って電話を切ろうとしたけれど、心音はそのつもりがないようで


『で?どうだった?そのアオイってboyは』と興味深そうに聞いてくる。


「どうもこうも、掴めない男だったわ。正直、関わりたくないタイプ」


『そうなの?顔だけならなかなかCuteな感じじゃない、まぁあたしのタイプではないけど。ちょっとワイルドが入っててSEとしては凄くクールでセクシーなユージの方がいいけどね』


「言ったでしょう?麻野さんには素敵な恋人がいるって。と言うか、あんたのタイプが聞きたかったわけじゃないの」


『冷たいのねー』と電話の向こうで心音がむくれている。


『ねぇ4℃ってブランド知ってる?』突如として聞かれて


「4℃?ジュエリーの?心音知ってるの?」


あのブランドは日本発祥の筈だ。


思わず聞くと


『そ。華氏に換算すると』



華氏―――


Fahrenheit


「39.2℉」


あたしが素早く重ねると


『そう、その温度はね、氷が張った水面の底の温度を表してるんだって。唯一魚が生息できる
いわば“安息の場”で、きびしい環境にあっての潤いそのものを現すんだって』


「それが何か?」


あたしが聞くと





『あんたの温度、4℃ってこと―――


どんなに厳しい状況にあっても、乗り越えられる。



あんたは自由に生きる、魚―――』




自由に生きる―――







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