Fahrenheit -華氏- Ⅲ

へっ――――?


急展開過ぎてついていけない。びっくりして目をまばたいていると


真咲は誇らしげに左手を掲げ、その薬指にきらりと輝く大粒のダイヤのリングがはまっていた。


「そっか…」


俺は思わず笑っていた。


「そっか」


もう一度言い


「神流さん!?」と菅井さんがぎょっとしたような声をあげ


「ちょっと何!?何泣いてんの!?」


真咲に指摘され、俺がはじめて自分が泣いていたことに気付いた。


慌てて鼻を啜り


「いや、ちょっと感動って言うか…」


かっこわる……





「啓人――――」




真咲に名前を呼ばれ、俺は涙の粒が浮かんだままの目をまばたきさせ真咲を見つめた。


「あんたのおかげ。


困らせてごめん」


真咲は頭を下げた。


俺はテーブルの上できゅっと拳を握った。


確かに真咲の登場と言動には充分過ぎる程悩まされた。けれど、それは俺の過去の過ちが招いたことだ、真咲を責められない。


真咲が現れなくても、結果俺は瑠華と別れていただろう。




二村のせいで。




「幸せになれよ」


俺は二度目の台詞を言い、伝票を手に取った。


「か、神流さん!ここは僕がっ」菅井さんは慌てて立ち上がったが


「ここは俺が。なので“次回”お願いします。例のバーで」俺が笑うと


「そっちの方が高くつきそうだな~」菅井さんは笑った。


「何?例のバーって」と真咲が顔を上げ、


「俺の隠れ家。神流さんとたまに飲むんだ」と菅井さんがグラスを傾けるジェスチャー。


「何それ」と真咲が唇を尖らせる。


「男だけの秘密のバーだから」と菅井さんがイタズラっぽく真咲に笑いかけ、真咲の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。


「ちょっ…やめてよねーもぉ」と真咲は身をよじったが、二人は心の底から幸せそうだ。


真咲




幸せになって




良かったな。


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