Fahrenheit -華氏- Ⅲ
時間にして、約10分弱と言った程度か。
村木はその時間、黙って話を聞いていたが
話し終えて
「瓜生常務と鴨志田監査役が―――……」
と静かに言い、ホットコーヒーを一口すすった。
村木は以前、瓜生常務は村木が入社したてのときの上司で何かと可愛がっていた、
鴨志田監査役はもうとっくの昔に代替わりしてる、今現在、緑川派の筆頭は……横浜支店の副支店長だったとも言った。
そもそも監査役に何の力もない。派閥争いには何の影響も及ぼさない。
と言い切ったのだ。
信じがたい、
君たちの仮説はあくまで仮説だ。と言いたいのだろう。
妙な沈黙が生まれた。
まぁ俺の意見もあくまで仮説なだけあって、それに足る証拠は何ひとつない。
「けれど、本当に二人が“ただの懇親会”をわざわざ銀座の料亭で開くと思いますか?」
俺が目を上げると
「そうだと言われていたのでね、私は信じましたが」
村木はそっけなく言う。
なるほど……懇意にしてくれた、過去の上司を疑いたくない―――と言うのか。
ここまでか……
不本意ながら村木が最後の砦(←大げさ?)だったが…
膝の上で握った拳に力を入れていると
「しかしその話が…あくまで仮説だが、本当だったら
今後、私の立場が危ういですね。
何より私は、神流会長―――あなたのお父上を尊敬している」
コーヒーカップに口を付けながら村木は静かに言った。
決して大きな声、とはいいがたいがその言葉には強い意思を感じた。
俺は膝の上で握った拳からそっと力を抜いた。気付いたら手のひらに汗をかいていた。
「じゃぁ…」俺が目を上げると
「あなた方に協力します。けれど危険な橋は渡りません。
危ないと思ったらすぐに手を引きます」
キッパリ言われ、
「危ない橋は渡らせませんよ。
俺が」
今度は俺が力強く、村木の目をまっすぐに見ながら言うと
「頼もしいジュニアを持って、会長も幸せ者だ」
村木は、ふっと喉の奥で微笑した。
これは―――…褒められてるのか?俺…
でも、この際どーだっていい。
薩長同盟成立だ!
俺はすぐ隣に居た裕二と拳と拳を合わせ
「「よっしゃ!」」と無言で交わした。
「善は急げ、と言うことで、このメンバーでしか……いや秘書課の綾……木下リーダ―の協力も得て出来ないこと、やります」
俺が目の底に光を湛えてまっすぐに村木を見据えると、村木は小さく頷き耳を貸した。